ギンイロノナミダ - Essay

Essay

19.Anniversary

あるチェーンレストランよりこんな葉書が届いた。

「あなたの記念日に、心をこめて贈ります。」…はぁ???俺の誕生日は10月26日だし、3月末日に誕生日を迎える知り合いもいない。いったいなんの記念日なんだろうと考えること数分、ようやく思い出した。というか、思い出したくなかった。忘れたままでよかったのになぁ…。

おそらく4月2日を指しているのだと思う。1年後にこんなことになっているなんて当時は思ってなかったんだなぁとひとり苦笑い。ようやく落ちつき始めた心に波風を立ててどうするよ、フォ○クス。

よく考えると、記念日ってのは誰にでもあるだろう。何かを始めた日。彼と最初に出会った日。誕生日や結婚記念日なんかもそうだ。毎年迎える記念日。しかし、昨年と同じ状況とは限らない。

14歳からずっと忘れられない日があった。5月18日。失恋記念日である。そんなもの忘れてしまいそうなことだが、このページを制作するときにふと思い出した。なかなか忘れられないのは男のほうらしい。でも、就職してからはすっかり忘れてたのだけれど。

心の中で自分の記念日を決めている人はいると思う。毎年その日を迎えるたび様々な想いが胸の中をよぎるのだろう。俺もそんな一人なのかもしれない。

今の仕事に就職してすぐの頃付き合い出した彼女と3ヶ月で別れた。彼女の誕生日も一緒に祝えないままに。そして11月28日、彼女の誕生日に一人で飲みに行った。初めて入ったバーのマスターはとても優しく迎えてくれた。1杯目のギムレット、2杯目にマティーニを飲み干したとき、マスターが呟くように言った。
「ジン、お好きなんですね。」
「いや、そう言うわけじゃないけど…あ、でもそうかもしれませんね。」
「今日は何かあったんですか?」
「えぇ、彼女の誕生日なんです。」
「それはおめでとうございます。御一緒にいらっしゃれば…」
「…いや、もう別れたんです…。」
「…そうでしたか。…何かお作りしましょうか?」
「お願いします。お任せで。」
そしてマスターが作ってくれたのは少し桃色がかったカクテルだった。甘さの中に少し苦味があった。嘘のようなホントの話。

それからというもの、その店はお気に入りとなったが、マスターの異動と同時にその店へはぱったりと行かなくなった。ひとりで飲みに行くことすら避けていた。

でも、またひとりで飲みに出かけるようなバーを見つけた。しかし、そこのマスターも近日辞めるという。またひとりで飲みに行ける店が無くなった。

忘れられない記念日にひとりで飲みに行くのも意外と楽しい。そしてこれからも俺はそうするのかもしれない。記念日だけが増えて、ひとりで飲みに行くこと自体は変わらないのかも。

(2001.3.30)