おやすみ

【今日のお題】今日は日曜日なのでお休み

休日は休日らしく過ごそうと思うので、次回から休日は更新をお休みします。決してネタが無いだとか、そんな理由ではありません。この文章はいつもとは一味違うのですから。

マナブさんはボクサーパンツを愛用しているのですが、今日に限ってブリーフ(水色)なのです。10年前に買ったブリーフなのに、年に2、3回しか履かないのでまだまだ現役です。今日は珍しくブリーフを履いた状態で日記を更新しているのです。そう言えば今年は今日初めて履いたような気がします。年に一度ですよ。七夕や節分や敬老の日と同列なのです。

ひとつ問題があるとするならば、それは誰の役にも立ってないということだけでしょう。かと言って誰かに迷惑をかけているわけでもありませんから許してください。

今日、大地震が起こってもマナブさんのブリーフの所為って事にはしないでください。

73.夏休みの思い出

今年の夏休みはなんとなく夏らしくなくて、宿題もやる気が起きず、毎日だらだらと過ごしていました。
弟が夏休み前に事故で骨折して入院していたので、楽しみにしていた家族旅行も行けなくなってしまいました。
友達はみんな田舎のおばあちゃんちに行ったり、サエコちゃんなんて「夏休みはハワイなの!」なんて言ってたし、
マキちゃんやユカちゃんに電話をかけて遊びに行こうとも思ったのだけれど、
出かけてますって言われるのが怖かったので、結局その日は夕方まで家にいたのです。

電話がかかってきたのは夕飯を食べているときでした。
お母さんが「マリちゃん、電話よ。」と言うので、頬張っていた玉ねぎの天ぷらを慌てて飲み込んで、
電話に出てみるとそれはユカちゃんからでした。

「マリちゃん、今夜空いてる?」とユカちゃんが言うので、
お祭りか何かだろうかと思って、わくわくしながら「空いてるよ!」と答えると

「じゃあさ、学校できもだめししようよ。」なんて言うのです。

「…他に誰が来るの?」と訝しげに聞いてみると、

「マキとヒロミとあたし。男子はタカユキとエージとみっくんとそれから…」
私はどきどきしながらユカちゃんの言葉の続きを待っていました。

「オオタク。」心臓がどきんとしました。

オオタク-大村卓治。

私はオオタクのことが好きでした。
中学生になって初めての教室で隣に座っていたのがオオタクでした。
学区外から入学した私には友達が全然いなくて、
休み時間に一人でぼんやりしていたら話しかけてくれたのがオオタクだったのです。
オオタクのお陰でクラスにも馴染むことができて、友達もたくさんできました。
オオタクはいつも輪の中心にいて、それでもみんなに気配りを忘れることがなくて、
引っ込み思案な私にはオオタクはいつも眩しくて憧れの存在でした。
そんなオオタクに会えるのならば、夜の学校は少し怖い気もしたけれど、すぐに行くからと電話を切って、
少しでも可愛く見えるようにとお気に入りのワンピースを着て、
はやる気持ちを押さえながら、足早に学校に向かいました。

学校の校門前にはユカちゃんたちが待っていて、
オオタクが「おぉマリ!久し振り~!」なんて笑って手を振るのがなんだかとても嬉しくて、
私もみんなに手を振りながら駆け出していました。
私が着いて5分後にはみっくんとヒロミちゃんとタカユキが来て、8人全員が揃いました。
「よぉし、それじゃ今からルールを説明するぞぉ。」
オオタクが私たちの担任の先生の真似をしながら言うので私たちは顔を見合わせて、
それから弾けたように笑いました。

ルールは男女ペアで校舎に入ること。

1階の理科室の前を必ず通ること。

3階の視聴覚室がゴールになること。

簡単なルールを説明した後、オオタクがくじ差し出して、みんなに引かせました。
男女ペアになるようにオオタクが作ってきたくじでした。私はオオタクとペアになりたいのだけれど、
きっと二人きりでは上手くしゃべれないだろうから、エージとなら上手くしゃべれるんだけどな、
なんてどきどきしながらくじを見ると4番と書いてあり、
女の子の1番はヒロミちゃん、2番がユカちゃん、3番がマキちゃんで、
男の子は私たちの番号を確認した後、順番に手を挙げました。1番はみっくん。
2番がオオタク。3番がタカユキ、4番がエージだった。
オオタクとペアを組むことができなかったのが残念だったけれど、
エージならいつも喋ってるし、緊張することもないかななんて考えていました。

「じゃ、1番!道雄&ヒロミ、行って来ます!」

みっくんとヒロミちゃんが手をつないで校舎の中に消えていくのを確認してから、
2番目のオオタクとユカちゃん、そしてタカユキとマキちゃんがそれに続いて行った。
最後に取り残された私たちは、急に口数が少なくなって、早くみんなに追い付きたかったのだけれど、
前のペアが消えて5分後に出発ってルールだったので、エージと二人でぼんやり星を見たり、
時計を見たりしながら5分を過ごした。

「そろそろ行こっか。」エージは立ち上がって私に手を差し出したので、
私はエージの手を握って夜の校舎の中に入って行きました。夜の校舎はしんと静まり返っていて、
私たちの廊下を歩く足音が校舎全体に響いていました。
普段見慣れているはずの校舎なのに、まるで悪魔のお城に入ったかのような雰囲気があって、
火災報知器の赤いランプが炎のように見えたりして、
私は来なければよかったなんて考えたのだけれど、エージがいるから大丈夫かなとも考えて、
私はエージの右手をぎゅっと握り締めました。
エージは普段はよく喋るのに今日は全然喋らなくて、
私も男の子と手をつなぐなんてシチュエーションで緊張してしまって、
それに暗闇の怖さも手伝って、ずっと黙り込んだまま、並んで歩いていました。
理科室の前を通るとき、いろんな動物の標本や人体模型が並んでいるのが怖くて、
更に強くエージの手を握り締めたら、エージが「怖い?」と聞くので、
怖いけどエージがいるから多分大丈夫だよと答えたら、「多分ってなんだよー」って
エージが怒った真似をしたのが可笑しくて、それからようやく気分も軽くなって、
ようやくいつものように話ができるようになって、
二人でいろんな話をしながら3階の視聴覚室を目指しました。

「もうみんな待ってるだろうな。」ってエージが言ったときにようやく私はみんなのことを思い出して、
みんなに会えるのは嬉しいのだけれど、もう少しエージと一緒に話したかったななんて考えていたら、
エージが「もう少し遠回りしていく?」って言ったので、うんって頷いて、
そのまま回れ右をして、二つ隣の教室に入りました。
暗幕のように見えるのは暗闇に染まったカーテンで、
そのカーテンを開けると月の光が教室の中に差し込んで、
場違いだとは思ったのだけれど、うわぁなんて思わず声を出してしまいました。
二人で窓の外を見ながらまたいろんな話をしたのだけれど、
エージは「うん…」とか「そう…」とか、また暗いエージに戻ってしまったので、
どうしたの?ってエージの顔を覗き込んだら、エージは急に真剣な顔になって、
実は今日のきもだめしはマリと二人っきりになりたかったから俺が考えたんだとエージが話し出した。

それからエージの話はよく覚えてないけど、エージは入学したときから私のことが好きだったと言って、
夏休み前に告白しようとしたけれど、結局何も言えなくて夏休みになってしまって、
みんなにも、私にも会えなくて、それでも突然誘うのは恥ずかしくて、
それでこうして企画したんだと言った。私は突然のことでびっくりしてしまい、
顔が耳まで赤くなるような感じがしたのだけれど、
この月明かりではそこまでエージには分からないだろうと思い、
少し安心したのだけれど、エージに付き合ってほしいと言われたときには心臓がどきどきとしてしまい、
頭の中でいろんなことがぐるぐると巡って、声を出そうと思ったのだけれど、
喉が渇いて声にならなくて、
そんな私を見てエージは「返事は急がないよ。行こう。」と行って教室を出て行こうとするので、
私も慌ててエージについていきました。

視聴覚室にはみんなが既に待っていて、遅いよーとか心配したよーとか言われて、
私はみんなにゴメンゴメンと謝りながら、少し落ち着きを取り戻して、
それからみんなで校庭に出て、花火をしたのだけれど、エージと目を合わせるのが怖くて、
ずっとユカちゃんやヒロミちゃんやマキちゃんと一緒に小さな花火をしていました。

そろそろ帰ろうかという頃に、私の家と同じ方向のオオタクと一緒に帰ったのだけれど、
本当はエージに送ってもらえば良かったかな、
なんて考えてたらオオタクがぽつりと「エージはいいヤツだよ」なんて言うので、
知ってるよって答えたら「そっか」と言って、また黙ったまま自転車を押して歩き出しました。
数時間前までオオタクに憧れてたのに、今隣にいるのに全然どきどきしなくて、
私はエージのことばかり考えていました。「それじゃ」ってオオタクに家まで送ってもらって、
オオタクが自転車に乗って夜道に消えていくのを見届けてから、部屋に戻って一人になったときに、
やっぱりエージの顔が浮かんできて、急にエージの声が聞きたくなってしまって、
すぐにでもエージにさっきの答えを言いたくて、アドレスをめくってエージの電話番号を調べました。
エージの番号をダイヤルしているときに、
そのうちアドレスをめくらなくてもこの番号を覚えるんだろうな、なんてぼんやりと考えていました。

ドリーマーに100のお題より 041:悪魔、062:暗幕、065:自転車に乗って、086:だらだら

(2003.10.4)

そろそろ

【今日のお題】041:悪魔、062:暗幕、065:自転車に乗って、086:だらだら(本文はこちら

来週から激務モードに突入予定です。
まずは慣らし運転から始めなくてはなりませんが、
とりあえず、やることをやってしまおうと。
夏休み開始と同時に宿題を片付けようと意気込んでいる小学生のように。

絵日記と読書感想文だけが残り、
最終日に架空の出来事で絵日記を綴った小学校1年生の夏。

あの頃からマナブさんはウソツキだったんですね。すいません。

72. はじめの一歩

春は嫌いだ。

確かに花は咲き乱れ、風に含まれる粒子は暖かく、新学期とも相まって心が弾むと他人は言うけど。

「はっ…はっくしょん!」

…ぐしゅ…まただよ…。

ここ数年、陽介は春になるとマスクとポケットティッシュは欠かせないものになっていた。いわゆる花粉症というヤツだ。涙と鼻水は常に溢れ、薬や民間療法もほとんど効き目がない。麗らかに晴れた春の午後だというのに陽介がちっとも浮かれた顔をしていないのはそのためである。 -おまけに花粉ってヤツは晴れた日ほど多く舞いやがる- 恨めしそうにサングラス越しに空を見上げ、ポケットからティッシュを取り出し鼻をかむ陽介の横を高校生達が笑いながら過ぎていった。

できることなら早く家に帰りたかったが、今日はどうしても本屋に寄らなければならなかった。月刊誌「voice to voice」の発売日だった。今月は自信があった。

陽介は3年ほど前からその雑誌に投稿を続けていた。「voice to voice」は小説や詩などの投稿作品を募集しており、その月の入選作は誌上掲載される仕組みになっていた。何度送ったことだろう。過去、かろうじて佳作が1回。佳作に選ばれたときは、「これで俺も小説家になれる!」と意気込んでいたが、何度も落選が続くとそのたびに唇からため息が漏れた。しかし、「いつか、きっと」という思いの方が強く、こうして今回も作品を送ったのだ。

ページを開くのは告白の返事を待つほどにもどかしい。こちらは言いたいことを全て告げ、「返事、急がないから」と言い残し、その数ヵ月後に呼び出されるような心境だ。これから一緒に歩き出せるのか、未来永劫の別れになるのか、そんな大層なものではないと他人は思うだろうが、陽介にとってみれば大学の授業の片手間に書いてきたこれまでの作品と違い、大学を休学してまで書いた渾身の一作だったのだ。これで入選がなければ書くことをやめようとさえ思っている。ゆっくりとページを開き、今月の入選作を探す。

 

「今月の入選作…」

 

この涙は花粉症の所為なのか、それとも、別の涙なのか。陽介は大きくくしゃみをひとつすると、雑誌を無造作にベッドに放り投げた。

『高崎陽介氏、どうやら新境地を開拓したみたいです。この勢いで今後も投稿を続けて欲しい。』と編集部のコメントが書かれた陽介の作品は優秀作として掲載されていたのだ。

自分の思いは必ず伝わる。そう信じて続けてきたことがようやく報われた気がした。しかし、まだはじめの一歩を踏み出しただけに過ぎない。この先、まだまだ躓き転ぶこともあるだろう。そうやって自分を諌めようとも、自然に口元がほころび、安堵の涙があふれ出た。

「新境地か…。」陽介はそう呟くと西側の窓から差し込む夕日に目を細めた。花粉を運ぶ風は少し弱くなったようなきがする。少しだけ窓を開けてみようと、陽介は窓のロックを外した。

ドリーマーに100のお題より 006:別れ、011:voice、013:唇、046:花粉

71. 約束

てっちゃんは昔からそうだった。一度決めたら意固地になって、決めたことを最後まで守り通す人だった。

てっちゃんはお母さんの言い付けをよく守った。私が今でも覚えているのは、私が大切にしていたお人形の腕をてっちゃんがもぎ取ってしまって、とてもとても悲しくておうちに帰ってもわんわん泣いて、そんなときにてっちゃんが私に謝りに来たときのこと。てっちゃんが何度も何度も謝っても、なかなか機嫌を直さない私に、「代わりに、これやる!」と言って、当時てっちゃんが大事にしていたロボットのおもちゃを差し出したときは、どうしてか分からないけど急に可笑しくなって、人形のもげた腕はお父さんに簡単に直してもらえるから大丈夫だよと私が笑ったら、てっちゃんはほっとした表情になって、もう一度「ごめんな」って謝って、それから私たちは仲直りをした。あとで話してくれたのだけれど、あのときてっちゃんはお母さんに怒られたのだそうだ。

自分より弱いものをいじめるのはいけません。鉄平、あなたは男の子でしょう。南ちゃんは女の子なんだから。鉄平が守ってあげないとダメでしょう。謝ってらっしゃい。そして許してもらえたら、ずっと南ちゃんを守ってあげなさい。

てっちゃんが照れくさそうに話すその横で私はぼんやり夕日に照らされるてっちゃんの横顔を見ていた。高校生になった今でも私のそばにいて私を守ってくれるてっちゃん。まだお互いに言葉にしたことはないけど、私はてっちゃんが好きで、てっちゃんもきっと…。

「みーなみー!100円貸してくれ!」てっちゃんが売店の前で手を合わせている。

「どしたのてっちゃん?お金ないの?」

「いや…さっきさぁ、テストの結果で池山たちと賭けてさ…。」

「よく賭けに乗ったねぇ!勉強全然してないくせにさぁ。」

「いや、今回は勉強したんだって!いつも南の部屋の明かりが消えるまで勉強してたんだぜ。」

「へー!すごいじゃん!でも…負けちゃったんだね…?」

「…あぁ…わずかに3点及ばなかったよ…。」

「ご愁傷サマ。しかたない。月末までには返してね。はい。」

「ありがと!南!」

財布から100円を出して手渡そうとしたとき、私はてっちゃんの手に触れて思わず100円を落としてしまった。そのまま100円玉は道路の方へ転がっていき、私は恥ずかしさも手伝って顔を真っ赤にしながら「あ、ご、ごめん!拾ってくる!」って道路に飛び出した。

「あ!危ない!南!」

誰かに突き飛ばされるような衝撃。

急ブレーキの甲高い音。

いろんな人の悲鳴。

救急車のサイレン。

 

てっちゃんは昔からそうだ。

決めたことは一度だって曲げたことがない。

あんな小さな頃の約束、意固地になってずっと守って。

目を開けてよ、てっちゃん。

私は無事だよ、てっちゃん。またてっちゃんに守ってもらったんだよ。

ありがとう、てっちゃん。だから目を開けてよ。

これからも守ってよ。起きて私を守ってよぉ。てっちゃん!

 

…………部屋が白い。

消毒液の匂いが鼻をつく。俺を見下ろす泣き腫らした赤い目の持ち主が南だと分かるのに10数秒を要した。「…みなみ?」

「…てっちゃん…てっちゃん!」

南に抱きつかれながら、ぼんやりしていたら、医者や看護婦が部屋に入ってきて、俺を見て皆喜んだり笑ったりしていて、俺が車にはねられて4日間寝っぱなしだったことを医者が説明してくれた。ずっと彼女が付き添っていたんだよ。素敵な彼女だね。大切にしなさいよ。そう言って医者たちは出て行き、病室は俺と南の二人きりになった。

「また…守らなきゃって…思ってるでしょ。」さっき医者に言われた言葉 -素敵な彼女だね。大切にしなさいよ- 俺の頭の中でリフレインしていた。

「…まいったな…。」

「ん?どうしたの、てっちゃん?」

「南を…大切にしなきゃいけないんだけど…その前に…。」

素敵な彼女か。

南、これからもずっとそばにいていいか?

ずっと俺が守ってやるからな。どんなことがあっても。

南が小さくうなずく。

俺は骨折している腕のことも忘れて南を強く抱きしめた。

ドリーマーに100のお題より 029:100円 030:鉄 044:南 098:賭け

(2003.10.2)

5周年

【今日のお題】029:100円、030:鉄、044:南、098:賭け(本文はこちら

一番最初のサイト「P’s Music Office.」を立ち上げてから5年経ちました。P’s Music Office. → NEVERLAND → 銀色ノ涙 と、タイトルを変え、休止を経て、ようやく5周年です。

5年前の今日、俺は親富孝通りで飲んでいたらしい。しかも一人でだ。彼女がいないとぼやいていた。5年の月日は人を大きく変えるものだとしみじみとしてしまった。

5年前に、まさか戸籍に×がつくなんて考えてもなかったなぁ。

25歳の俺に、そしてもうすぐ31歳になるマナブさんに乾杯。酒好きなのは相変わらず。

新企画スタート

ドリーマーに100のお題

今月はこの「100」に挑戦。一日ランダムに3~4つのお題を元にESSAYを書こうと思います。

【今日のお題】017:負担、036:アンティーク、060:怖い、100:すき (本文はこちら

しょっぱなから飛ばしてみた。このテンションが維持できるか、心配ではあるがそこは後先を考えないマナブさん。昨日のことなど覚えちゃいない。明日のことは分からない。

ぶっちゃけ、出たとこ勝負。

70. 祖母の家

祖父が亡くなり、一人で残された祖母は一人でその古めかしい家に住んでいた。老人の一人暮らしは大変だろうからと両親をはじめ親戚一同は祖母に一緒に暮らそうと話を持ちかけたが、祖母は子供達の負担になるのがイヤだからと頑なにその家に住み続けた。

父に連れられ僕が遊びにいくと、祖母は相好を崩して喜んだ。僕は祖母が好きだったが、その古い家は好きではなかった。薄暗い部屋に丁寧に配置されたアンティークの家具。微動だにせずまるでこちらを見つめるような肌の白いフランス人形が怖かった。

「おばあちゃん、あの人形、怖いよ。」僕は幾度か祖母に訴えたが

「怖くないよ。あれはおじいちゃんのお土産なのよ。綺麗でしょう?」と、人形を膝に抱え、まるで自分の子をあやすかのように目を細めるのだった。

祖母の話に出てくる祖父しか僕は知らない。祖父は若い頃、欧米を旅行し、その魅力に取り付かれ、いい年をしてというのも失礼だと思うが、当時は海外に何度も足を運んでいたらしい。僕が生まれたときは祖父母は大層喜んだらしいが、僕が物心ついた時には祖父は既にこの世を去っていた。僕の名前は祖父が付けたものらしく、小さな頃はこの仰々しい名前が好きではなかったが、祖母は祖父の名からとった僕の名前を気に入っており、10数人いる孫の中でも特に僕を贔屓にしていた気がした。

その祖父母の家が取り壊される。僕が就職4年目にしてようやく結婚を決め、実家を出るのと入れ替わるように祖母が両親の家に越してくることになった。披露宴を1週間後に控えた日曜日に僕と婚約者はその家を見に行った。

重機が庭に入るとその家は小さく見えた。子供の頃は大きくて暗くて怖かったその家も今では所在をなくして小さく肩をすぼめているかのようだった。祖母は黙って取り壊す作業を見ていたが、突然わっと泣き始めた。「お祖父さん!お祖父さん!」と泣き崩れる祖母の肩を抱きとめたのは僕の婚約者だった。

帰り道の車の中、僕と婚約者はただただ無言で過ごした。壊される家。泣き崩れる祖母。運び出されたアンティークな家具。祖父母が愛した家。僕らを黙らせるに十分な時の重みがそこにはあった。

「本当はさ…。」婚約者がぽつりと口にした。

「お祖母さんは…子供に負担をかけたくないとか、家が好きだからとかは言い訳だったんじゃないかな。誰よりも…そして今でも、お祖父さんの事が好きだったんだと思う。」

呟くように話す彼女に「そうだな。」と短く答え、前を向く。

婚約者を自宅で下ろしたとき、

「あんなお祖母さんになりたいな。」と彼女は呟いた。

「幸せにしてね、欧英(たかひで)」

僕は彼女をぎゅっと抱きしめ、おでこに軽くキスをした。

ドリーマーに100のお題より 017:負担 036:アンティーク 060:怖い 100:すき

(2003.10.1)

またもや

9月1日に植えた豆がこんなに大きくなった。植え替えをしなければ。

SKIP(リンク切れ)で野菜を購入した。ジャガイモとトマトが美味いのなんの。牛乳も味が濃くていい感じ。きっとキュウリもピーマンも梨も美味いだろう。

お腹の肉を気にするあまり、低脂肪乳やカロリーオフビールなど買っていたが、たまに飲み食いするものくらい目を瞑ろうと思った。

今週は飲み会が続く。ずっと目を瞑らなくてはなるまいか。来週こそは目を開けて生活しなくては。

10月のテーマはまだ決めてません。今日中になんとか考えます。